Hayato Kumagai
Hayato Kumagai
個展
の木
2023.09.08-09.18
SoL

yuk ユク
“この語は、いま、もっぱらシカの意に用いられるが、もとはもっと意味がひろく、狩のえものの中でその肉が食料として重要であったクマ・シカ・エゾタヌキ等のどれをもさす名称であった。”
(アイヌ民族博物館・アイヌ語辞典より)

森で鹿のような木を見たのはもう八年前のことだった。その時の感覚は北海道に暮らしてからも未だ身体の奥深くで眠っている。時々根室へいき、アカエゾマツやミズナラの風衝林、エゾシカに会いにいく。ずっと探している何かが、そこにあるような気がする。
かつての鹿の木から、ようやく絵が目覚めていく。イメージの森を旅しながら様々な生命の木と出会い、それらを絵に描いてみたい。

北海道・滝川市のSoLさんにて、9月に絵の展示を行います。
SoLさんとは以前からInstagramで繋がっており、いずれお店へ伺えたらと思いつつ実現できずにいたところで、昨年秋に展示のお誘いをいただくことになりました。
今年の冬に自分が網走で開催した個展にお越しくださり(初対面)、その後こちらからもお店へ伺う機会を経て、今回の展示が実現するに至りました。

SoLさんは衣服をはじめとする様々な生活のものを取り扱われているお店で、作間さんご夫婦の目と手で選びぬかれた確かなものたちが店内には満ちています。それは葉脈が隅々まで行き届くかのようでもあり、空間に身を置くと自分もその一部となって、世界が広がっていくかのような感覚をおぼえます。

北海道で暮らすようになってから、長らく惹かれ続けてきたアイヌの言葉”yuk ユク”から広がるイメージ、そして自分の中にずっと眠り続ける”鹿の木”のイメージ。
ふたつが交わりあうときに生まれくるものをいつか絵にしてみたいと、ひそかに思い続けていました。
SoLさんもまた、自分のなかで生命溢れる木のイメージが強く思い浮かぶ場所であり、勝手ながら通いあうものを感じています。
畏れ多くも思い浮かんだ”ユクの木”という言葉をたよりに、今回絵を描いてみたいと思います。

ご都合あえばぜひ、足をお運びください。
どうぞよろしくお願いいたします。

✳︎

昨日で無事に終了しました。おかげさまでたくさんの方にお越しいただき、多くの絵たちが旅立つこととなりました。本当にありがとうございました。
在廊は二日間しかできませんでしたが、その間にもたくさんの出会いがあり、一人ひとりお話することができてうれしい限りでした。
絵をお買い上げくださったみなさまには、お渡しするまでにもうしばらくお時間をいただくことになると思いますが、それまでゆっくりと楽しみにお待ちいただけると幸いです。

搬出を終えたあと、最後にSoLのおふたりとお話しているうちに、はじめてお店を訪れた時に”生命の木”というイメージがなぜ自分のなかに宿ったのか、なんとなく腑に落ちたような気がしました。
樹のようにおおらかな作間さんの存在感と、その傍らで小鳥のように佇むえみさんの姿。僕が初めに感じていたおふたりの心象は、じつはもう少し異なるところにあったような気がするのですが、今回の展示で共に時と場をつくりあげていくなかで、様々なことが繋がり、熱を帯びていくような感覚があり、最後に浮かんだイメージと最初のイメージとが、不思議と自然に結ばれたように感じられました。
言葉未然に、イメージ(光)をとおして世界にふれること。絵を描いているとそのような感覚がとても自明なものとして感じられるのですが、SoLのおふたりもそのような感覚をたしかにお持ちで、それを信じ、お店というかたちをとおして表象されているのだと、そう思いました。
多くを語らずとも、語りそこねても、意識の裡に宿る光をとおして、共に在れること。それは何と尊いことなのだろうと、僕は思います。

すでにもう新しい”生命の木”が自分のなかで芽生えているのを感じています。それをまたいずれ、ここに帰ってきてふたたび絵にすることができたら、と思います。

個人的な振り返りとなってしまいましたが、いまこの場所で展示をさせていただけたこと、本当に有難いことでした。
あらためて、どうもありがとうございました。