イニュニック（Inuuniq）はアラスカにおもに住む民族・イヌイットの言葉で「生命」を意味する。写真家・星野道夫の文章をとおしてイヌイットの世界を知った時、自分の中を巡ったイメージはいのちがお互いを食べあう「生々しくも美しい」姿だった。絶え間ない生と死の与奪のなかに、 生きていることの確かな実感、しあわせ（死合せ）があるということ、その神秘を思った。

線刻を進めるうえで、遥か昔に描かれた洞窟壁画に見られる模様や、世界各地の民族の装飾に見られるパターンを取り入れていった。描き進めていくと、魚や鳥や爬虫類がぐねぐねとのたうちまわり、お互いを食べあい、そして戦っているかのようなイメージが見えた。それは生命の本質的な姿でもあり、どこかグロテスクでもありながら、美しいと呼びうる何かがあるように感じている。