はじまりの灯
おわりに

この文章はおもに2019年12月から2020年2月にかけて、旅の路銀集めにいそしみながら(実際はホテルの和食調理補助バイト)休憩時間の合間に無我夢中で書き尽くしたものを軸としています。
当時連載のようにしてnoteで公開したあと、巨きな絵と共にしばらく眠っていましたが、今年2022年の秋に入ってから全体的な校正を入れはじめ、「結 永遠のおもかげ」を新たに書き加えることで、ようやくひととおり形にすることができました。

最初の執筆時点ではオーストラリアを旅するために準備していたものの、その最中に広がり始めた感染症の報せを受けて、なんとも遣る瀬ない気持ちになったことを憶えています。かつて文字どおり命を削るようにして書いたアパートメントでの連載をひとつの道標としながらも、その時点では自分が思うように文章を書き終えることが出来ず、当時はまだ足りなかった旅の資金を集めるために巨きな絵のポスターを販売することなども当時構想し進めていたものの、それも結局うまくいかずに立ち消えるという有様でした。
それまでの「絵を巡る旅」がこの文章でも見てきたとおり、あまりにもうまくいき過ぎていたからなのか、うまくいかない時はとことんうまくいかないのだということを、その後新潟の実家で悶々と過ごす日々のなかでも思い知らされました。

2020年、誰が言ったか"風の時代"と呼ばれたその流れを追い風に北海道へと移住してからは、自分の絵を描くかわりに人間として生きるうえでの現実的な問題の数多くと向き合ってきました。金銭的な問題は相変わらず立ち行かずにいるものの、人間であることそれ自体をはじめ、些細かつ内面的な個人の問題がそれまでと違った様相を見せはじめたことは、最後の文章からも幾らか伝わったかもしれません。
ここには書くことがかないませんでしたが、十勝に来てから出会ったたくさんの温かい人たち、折にふれて本州へと旅するなかで出会った人たち、そして会わずとも繋がってきた人たちの存在がなければ、ここまで辿り着くことはできませんでした。この小さな場を借りて、そのことにあらためて感謝の気持ちを述べたいと思います。本当にありがとうございました。

「結 永遠のおもかげ」で書いたとおり、来年からは巨きな絵を展示をしようと思います。そのためには現実的な問題として、やはりどうしてもお金のことがつきまとい、なんとかしなければと頭を抱えているところです。
来月から自分なりに協力を募るような動きをとろうと思っていて、少しずつ準備を進めているところです。もし巨きな絵の新たな船出の力になりたいと思われる方がいらしたら、その時お力添えいただけると、こんなに有難いことはありません。

あとがきにこんなわがままを書いてしまい心苦しいのですが、こんなにも私的な思惑にみちたこの拙文をお読みいただけたことに、まず何よりも感謝したいです。全体を読み通して感じられたことのうち、もし何か一言でも伝えたいことがあれば、遠慮なくお伝えください。それもまた、次への糧となり道標となっていくものだと思います。

十勝晴れと呼ぶに相応しい澄み切った寒空のなか、こうして文章を書いているいまも陽光が燦々と降り注いでいます。
太陽はかがやかしすぎる生そのものと同様、直視することができないものですが、この地上でいつか、見ることのできる太陽をかたどってみたいです。世界する世界のなか、いまここにあるすべてとともに。

2022.11.27 熊谷隼人