展示概要
2023年5月、北海道から巡回展ははじまりました。
日本各地を旅していきながら、今も展示は続いています。
屋内外を問わず、然るべき場所であれば山のなかでも海のそばでも、
巨きな絵を絵巻のように携えて、現地へと向かいます。
展示の際には、その時々の巡り合わせでさまざまな特別企画を行っていきます。
現地での滞在制作(ライブドローイングや参加者との共同制作)を行うほか、
食や音楽とのコラボレーションなど、その可能性をどこまでも広げていきます。
旅の最終的な到達点は、巨きな絵を燃やすこと。
もともと世界を巡る旅に出ようとしていた絵描きにとって、
それは旅の前に自らに課していた、ひとつの通過儀礼でもありました。
絵の題が示すとおり、その瞬間にこそ「はじまりの灯」が点されることを希って。
OUR songs 一枚の紙にみんなで描く
巨きな絵の巡回展と共に行っている企画のひとつに「OUR songs」があります。これは2019年に熊谷隼人が北海道に移住して以来自然発生的にはじまった、一枚の紙にみんなで一緒に絵を描くという試みです。
参加者は大人・子どもを問わず、いわゆる"絵心"のようなものもここでは重要ではありません。最初はためらいがちに絵を描いていた人も、しだいに水を得た魚のように勢いよく絵の具を重ねていくことも多々あり、画面にもそれが力強いエネルギーとなって反映され、最終的に紙が破れてしまい、再び繋げてコラージュすることもあります。
OUR songsは熊谷隼人にとって、新たな絵を描くための創造の源泉そのものであり、ライフワークとなりうる活動のひとつです。繰り返し続けていくことによって自らもまた解放され、描かれる絵も少しずつ変化の兆しを見せはじめています。
ライブドローイング
音楽とともに、即興で絵を描くライブドローイング。巡回展の催しとして、これまでに音楽家の青木隼人さんや唄い手のnaluさんとともに会をひらきました。
絵はただ画面に色や形となって現れるだけでなく、踊るようにして空間に指で線を描くこともあれば、時に鹿の角で線を描いたりすることもあり、形の有無を問いません。その時その場にしか生まれない絵を、音楽とともに、そして観客とともに描き奏でるようにして、ライブドローイングは行われます。
巡回展十ヶ所目の和歌山・normにて唄い手のnaluさんと行った唄と絵の即興では、途中で"OUR songs"が合流したかのように、お客さんと共に絵を描く場面がありました。今後の巡回展で、ライブドローイングがどのように変化していくのかが楽しみです。
2019年夏〜2022年夏までの間、熊谷は絵描きとしての活動を一旦休止していました。
しかしその間も無意識のうちに繰り返し思いをはせていたのが
巨きな絵の存在であり、それはかつての自分が生み出した絵でありながら、
再び絵描きとして歩みはじめた時にも何よりの道標となるような、かけがえのない存在でした。
今となっては、絵の題名である「はじまりの灯」という言葉が
これからの新たな旅立ちを、あたかも予見していたかのように思われます。
巨きな絵が風をはらむその姿は、あたかも一隻の舟の帆のようでもあり、
絵描きとしての活動を再開するうえで、巨きな絵を舟に見立てて共に旅をすることは
何よりも心強く、また確かな道のりであるように感じられました。
最後に絵を燃やす瞬間までに至る通過儀礼のような旅のなかで、
自分にとって確かなものを見つけていけたら、と思っています。