Something to remember you by
 

Something to remember you by あなたを憶えている誰か

はじめに
 01 | 木々を巡る旅
 02 | 描くことは無類の光
 03 | 捨てられない絵葉書
 04 | 吊るされた家
 05 | やさしい夜のために
 06 | 人は矛盾を愛せない
 07 | 死なないものは生きていない
 08 | 風景
 09 | 存在の祭りのなかへ
 みとさんの紹介文
 おわりに
something to remember you by
おわりに

あらためて文章を残すにあたり、内容にはそのまま手を加えなかったのですが、全体を括る題のようなものがなかったことに気がつきました。

"Something to remember you by"、この言葉は文章中にも出てくるキース・ジャレットのアルバム"The Melody At Night, With You"の中にある曲のタイトルを引用したものです。
連載中、その意味をなんとなく調べていたときに「あなたを覚えている何か」という言葉が出てきました。訳としてはおそらく正確ではないと思うのですが、その印象的な表現のことが、ずっと頭の中を離れずにいました。

あなたを憶えている何か、誰か。それは自分にとって、かつてこの世に生きていた大切な人のことであり、部屋の窓を伝う雨粒たちのことでもあり(それらは無数の魂のようにも見える)、もしかすると、あなたのことでもあるのかもしれません。

生きることは相変わらずおぼつかなく、予想だにしない出来事の連続です。連載が終わったあと、計画していた海外への旅はコロナで断念せざるを得なくなりました。好きな人とは一度一緒になりましたが、また別々の道を歩むことになりました。気がつけばまたひとり社会の中に呑み込まれ、あくせくしている日々が続いています。

それでもここにとどめることのできた"何か"は、まぎれもなく自分がこの世に生きた、存在したことの証なのだと思います。
いつかまた、こんなふうに文章を綴る日が来るような気がしています。そのときまで自分の人生を見限ることなく、今できることと向き合っていきたいです。来たるべき長旅のために。出会うべき誰かのために。

ここまでお読みいただき、ほんとうにありがとうございました。

 

2021.08.10 kuma