みとさんの紹介文
アパートメントでの連載中、毎週新しい記事が公開されるたびに、以前連載をされたことのある
みとさんに紹介文(レビュー)を書いていただきました。各回ごとにいただいた紹介文を、以下に載せておきます。
01 | 木々を巡る旅
ようやくそれをみつけたのか、それとも、ずっとそこにあったのに、見えなかっただけなのか。姿なきものの形を見るとき、声なきもののささやきを感じるとき、それは深層への旅の誘いなのだろう。
02 | 描くことは無類の光
「きみ、どこかで会いましたか?」
kumaさんのえがくいきものたちを見たとき、なんだかとても懐かしかった。私がうまれるもっと前からの古い友人のような気がした。これはなんの記憶だろう?
その眼差しやその響きを知っている。雲の流れであり、水のゆらぎであり、風のざわめきであり、土の鼓動であるような、わたしであるより以前の記憶だ。
03 | 捨てられない絵葉書
手放すことでしか行けない場所があり、求めていたものを得られなかったことにより、見えた景色があるのだと思う。得た痛みは時間を経て結晶化し、光を受け反射するだろう。旅は、気づきと発見と出会いだ。
04 | 吊るされた家
知らない誰かの生活の跡、知らない誰かの思い出。持ち主が去った後の。「知らない」でいるということは、私の中で、(あなたの中で)自由であるということ。それは想像力を持って物語になる。
森にポツンと残された古いキャンピングカーを見つけたとき、廃墟になってしまった住宅を訪れたとき、使い古された道具を見たとき、知らない過去が郷愁を持って物語が立ち上がったことがあった。いや、私が「物語」を求めてそれらに会いに行ったのかもしれない。わたしたちはどうしてこうも「物語」に惹かれてしまうんだろう。
05 | やさしい夜のために
夜中に小さな明かりの下で話しをするような、古い日記のページをめくるような、優しい断片たち。ときどき開かれて寄り添い、そしてまた大切にそっと仕舞われる。親密な時間の思い出は、失われる事がない。
06 | 人は矛盾を愛せない
到底受け入れることのできない出来事を目の前にして、それでも、どうにか生きていくしかない。混沌としたこの世界の中にも、希望があるということを、失わないようにして。
「正反対の性質のものが同時にある」事を「矛盾」とすれば、心と身体がそれぞれ分けて考えられる、人間のつくりそのものが矛盾だ。だから人間の住む世界は矛盾と混沌である。
加害者に対し、怒りや恨みを持つ事も、出来事について考え続け、受け入れる姿勢をとることも、どちらも本質はそう変わらない。忘れることのできない経験の苦しみと痛みと傷跡を持ち、それを抱えて生きていくための葛藤である。人間の本質とは「自身を失わず生きていくこと」にあるのではないかと私は思う。そして美しさがあると信じることが希望になるのだと。
07 | 死なないものは生きていない
世界というものはとてつもなく大きくて、わからない事が多すぎて、知らない事が多すぎて、それらを感じて、考えていくのには、きっとこのひとつの体には小さすぎて収まりきれないんだろう。そうして立ち尽くしてしまう。
鈍感でいれば、やり過ごせるだろうか?漠然とした不安を持たずにはいられない。
そんなときにふと人々の生活というものを目にすると、ホッとする。
日々を、いちにち、いちにちを、暮らして生きている。そんなことがなんだか、さびしくて、尊くて、愛おしくて、そしてときどき苦しくなる。生きるということは自分の暮らしを見つめ続けること、そこから世界を見出すことのように思う。
08 | 風景
還りたいのは、懐かしくて、やさしくて、さびしい場所。目の前にあるようで、とても遠い、知らないのに、知っている、辿りつきたい場所。そこはあたたかいだろうか、それともつめたいだろうか。
自分がここにいる、と思えることは、自分が自分である、と考えなくてもよい、ということ。
風景の一部となり、どこまでもよく見えてどこまでもよく聞こえ、どこまでも広がっていく。
そういう風景を私はさがし求めている。
09 | 存在の祭りのなかへ
愛するっていうことは、向き合って、ぬくもりも、優しさも、弱さも、混沌も、それらを美しさとして全てを受取る、しなやかさを持つこと、すべての包括なのかもしれない。
kumaさんは、人に対して、世界に対して、自身に対して、まっすぐに素直に向き合う心をもっている。彼の絵から感じられる大地の静けさ、風景写真から感じられる懐かしさ、ポートレートから感じられるぬくもり、それぞれの性質は異なるものだけれども、どれも彼のものである、という事を連載を通して見つけられました。
kumaさんのアパートメントでの連載は、kumaさんの魂のきらめきの軌跡であるかのようでした。
連載が終わってしまうのがこんなにさびしいなんて。
ほんとうにありがとうございました。